M君

高校時代とても太った友人がいた。それが今回の主役M君である。彼の生活を見ていると人が太るメカニズムが手に取るようにわかる。

 

彼のズボラ具合がわかるエピソードの1つとして挙げられるのが留年なのだが、もちろん普通の留年とは少々事情が違う。通常、留年というのは《単位の不足》が原因となるケースが多いが、彼の留年理由は《出席日数の不足》学生寮に住んでいることによる通学時間1分というアドバンテージを完全に無視した留年である。さらにあろう事か彼は寮長。仕切る立場の人間を留年させると下の学年に示しがつかなくなるため、学校側も何とか留年を阻止しようとしたのだが、M君は学校側の善意をも振り切って留年してしまった。寮長の留年というのは学校創設以来前代未聞の珍事である。(因みに寮長より重要なポストである学生会長も同時に留年している)

 

 

突然だがナルコレプシーという病気をご存知だろうか。【場所や状況を問わず突然強い眠気に襲われる脳疾患】のことで日本では過眠症とも呼ばれる。彼がナルコレプシーだったと仮定すれば様々な事象の説明がつく。

 

学園祭の日、M君は朝の大食い大会に出場する予定だったが、姿を現さなかった。その後も待てど暮らせど現れず、ついにM君は姿を現すことなく学園祭は終わってしまった。

夕方7時を過ぎ、彼の部屋を訪れてみるとM君は普通にそこにいた。「なんで学園祭に来なかったのか」と尋ねると彼はこう答えた。

 

「起きたら終わっていた」

 

突然哲学でも語り始めたのかと思ったが、彼は事実を述べたのみ。この答えを聞いた時には彼の凄まじい睡眠力にただただ驚愕する他なかったが、ナルコレプシーだったのなら合点がいく。

そういえば授業終了時に机で寝ていたM君が部活終了後、真っ暗な教室でまだ机に突っ伏していたこともあった。死んでるのかと思って本気で驚いたが、これもナルコレプシーによるものだったのだろうか。

 


しかし彼には、ある習慣があった。彼の部屋に泊まっていると必ず彼がムクリと起き上がる時間がある。それは月曜午前2時と水曜午前2時。つまりは、週刊少年ジャンプ週刊少年マガジンがコンビニの棚に並ぶ時間である。この時間に彼が起きないことはない。絶対に起きる。起きるなと言っても起きる。これではナルコレプシーとは言えない。やはり彼はただのズボラ人間なのだろうか。

 

その後M君はなんとか無事に学校を卒業。2年後に社会人になったM君と再会することになるのだが、そこでM君は"ナルコレプシー説"を再燃させる事件を起こす。

 


それはある先輩の結婚披露宴。感動のVTRが流れ会場には啜り泣く声が聞こえていた。私のテーブル周辺を除けばとても良い雰囲気だったに違いない。会場全体が啜り泣く中、私のテーブル周辺では何故か啜り笑いが起きていた。M君が"場所や状況を問わない突然の強い眠気"に襲われたのだ。私のテーブルの後ろには新郎親族のテーブルがあったのだが圧巻の睡眠パフォーマンスに親族まで写真を撮りだし俄かに盛り上がりを見せ始めた。とはいえやはり結婚披露宴。本来なら正常の雰囲気を取り戻すためにここで起こすべきだったのだが、余興で死ぬほどスベった私たちは"この笑いに賭けよう"という妙な一体感に包まれていた。結局M君が披露宴中に起きることはなかった。披露宴終了後、皆が続々と会場を出ていく中、依然として着席を貫くM君。彼が座り込みデモのリーダーならこんなに頼もしいことはないだろう。ここまで来ればもう起こす手はない。M君を残し私たちも場外へ。観察を続ける。軽い人だかりが出来、写真を撮られまくるがM君は微動だにしない。さすが反社会勢力。圧倒的睡眠力。気付けば披露宴会場にはM君ただ1人。ウエイターの男性に起こされるまで彼の睡眠は続いた。「披露宴終わりましたよ」とでも言われたのだろうか。

 


腐るほど睡眠ネタを持つ彼だが、ハッキリ言って喋ると全く面白くない。面白いことをしようとすると確実にスベるが、意図しないところで笑いが起きるハプニング特化型である。

 

 

別の結婚披露宴の余興で和田アキ子のモノマネをして死ぬほどスベったM君は、気が動転してテーブルにぶつかり大量のグラスを割ってしまい、会場の雰囲気は最悪に。逃げるように会場から出て行こうとしたM君は裸足で割れたグラスを踏みまくって血塗れになり、結果的に大きな笑いを生み出した。

 

 

グラスを破壊して血塗れになるって、どういうジャンルの笑いなんだ。そもそもなんでオマエは裸足なんだ。

  

 

彼は他にも様々なハプニングを起こしてくれた。

 


学生時代、彼の部屋は愛飲するカルピスソーダ(ロング)の空き缶で埋め尽くされていた。彼の左手にはいつもカルピスソーダが握られており、残った右手は常にPCへと伸びていた。いつ見ても全く同じポーズ。自由の女神像の最下位互換と言ったところか。ある日、彼がいつも通りカルピスソーダを飲みながらPCを弄っていると突然「ブーッ!!!!!」という破裂音と共にPC画面に向かいカルピスソーダを噴射したことがある。周りにいた人間は爆笑。すると笑われたことに腹を立てたM君が「許さんぞ!」と言いながら次々と友人に襲いかかった。勝手にカルピスソーダを噴射して「許さんぞ!」とは何事だろうか。最初に襲いかかった相手はM君が普段「○○様」と呼ぶ人物だった。「○○様許さんぞ!!」と襲いかかるM君。"様"付けで「許さんぞ!」とは珍しいことを言う奴だ。しかも襲いかかる際に自らの腕でカルピスソーダの缶を倒してしまい、床がビショビショに。倒れた缶を見て更に怒り狂うM君。やめろ。全部オマエ1人の仕業だ。暴れる巨漢をなんとか取押え、何があったのかと聞くと「カルピスソーダが喉で爆発した」とのこと。コレが本当なら大問題だ。至急メーカーに問い合わせたところ「カルピスソーダが喉で爆発することはない」とのこと。カルピスソーダ好きの皆様、ご安心下さい。

 


彼のエピソードは他にも"居酒屋でブチ切れマガジン真っ二つ事件"(そもそもなぜ居酒屋にマガジンを持参?)や"肩が痛すぎて救急車を呼びかけた話"などがあるがキリがないので今回は割愛する。


M君には人間的な魅力は全くない。
ただ何故か彼の部屋にはいつも人が集まっていた。"愛される遺伝子"というものがあるのなら彼はそれを持っていたに違いない。
(「寮長だから部屋が広かった。部屋にゲームが沢山あった。」という理由では決してない)

 

 

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