ばあちゃん

御存知の方も多いと思うがうちの婆ちゃんにはなかなか可愛いところがある。トイレには絶対に鍵をかけないので度々半裸の婆ちゃんと遭遇するし、パスタにはフォークとナイフを出してくる。昔近所にあった《サンセリテ》というレストランは《サンセリ亭》と勝手に名を変えられ和食処のようになっていたし、美味しい野菜が食卓に並んだときに「どこで買ったの?」と聞くと「デオデオ(近所の家電量販店)」と返事が返ってくる。とにかくとてもお茶目である。

 

反面、かなりヒステリックな一面もある。
沸点が死ぬほど低いので、余計な発言をするとすぐにブチ切れられる。例えば、前述のパスタにフォークとナイフの件に関しても「フォークとスプーンを使うから今度からナイフじゃなくてスプーンにしてね」とお願いすると「ワシャわからん!!!」とキレられたりする。長年一緒に暮らしてきて抗議は無駄だとわかっているので、今では全て甘んじて受け入れるようになった。ちなみに以前、抗議ではなく「このナイフ使わないよ」とだけ言ってみたことがある。《ナイフを使わない》という事実さえ認知してくれれば今後間違えなくなるかもしれないと期待したからだ。しかし私の発言を聞いた婆ちゃんは、何故か台所から別のナイフを持ってきた。コレがその時の写真である。

 

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そうか。ピンクの柄が気に入らないのかと思ったのか。

 

そういうことじゃないんだ婆ちゃん、、、

 

 

やはり無駄な抵抗はするべきではなかったと猛省した。

 

 

 

 

こんな婆ちゃんだがコツさえ掴めば案外とうまくやっていける。むしろ私とそりが合わないのは母親の方で、まともに会話しようとすると大体喧嘩になってしまう。そして大概、思春期の子と同様「うるせぇクソババア!」などと口走ることになるのだが、そうなるとうちの婆ちゃんは黙っていない。

 

「親に向かってその言い方はなんだ!!」

 


爺さんと喧嘩するたびに「黙れこの腐れじいやん!!」と叫んでいるアンタにだけは言われたくない。

 

まぁ人の金を使って勝手にパチンコに行く爺さんが「腐れじいやん」であることには違いないのだが、不憫なのでたまにはミュージカル調で叱ってあげてほしい。

 

 

どうしてキミは内緒でパチンコに行くのかな〜ルルルルル〜♪人のお金を勝手に使っちゃダメだよね〜♪

 

これぐらいソフトに叱ってあげれば家庭の雰囲気は抜群に良くなるはずだ。

 

 

 

 

そんな婆ちゃんだが、家族以外の人間と接するときには別人のようになる。世間体をとにかく気にする人間なので他人がいるときはずっとニコニコしていて品の良い女性を演じ始める。恐らく近所の人は、爺さんのことを「腐れじいやん」と呼んでいるなどとは夢にも思ってないだろう。

 

 

 

話は変わるが、昔友人を家に連れてきたことがある。丁度昼時だったので婆ちゃんに何か作ってくれと頼むとインスタントラーメンを2つ作ってくれた。ラーメンを食った友人が「お婆ちゃん、このラーメンめちゃくちゃうまいよ」と言うと婆ちゃんは「そうですか。良かったです」と頭を下げた。すると友人がふざけ始め「お婆ちゃん、このラーメン本当にうまい!」「いやーこんなに美味しいの始めて食べた」などとワザとらしく何度もラーメンを褒めはじめた。婆ちゃんは「そうですか」と微笑んでいてまんざらでもなさそうだったので特に止めもしなかった。そして友人は帰り際にもまたふざけて「お婆ちゃん!本当にラーメン美味しかった!また作ってください!」と言いはじめたので「うるせぇ!早く帰れ!笑」と追い払った。


すると数十分後、婆ちゃんが2階の私の部屋をたずねてきた。婆ちゃんは基本的に私の部屋に来ることはない。友人の前だからニコやかに振舞っていたが、もしかして悪ふざけが気に触ったのかななどと考えていると、婆ちゃんは部屋に入るなり私にこう言った。

 

 

 

 

 


「あの子、ラーメン食べたことないんか」

 

 

 

 

 

 

後にも先にもあんなに笑ったことはない。完